志磨遼平メジャーデビュー10周年『ID10＋』特設サイト

Ryohei Shima2020 Major début 10th anniversary “ID10+”

Ryohei Shima 10th

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志磨遼平ベストアルバム『IDIOT』
2020.4.15 Release!

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志磨遼平メジャーデビュー10周年東名阪ワンマンツアー
IDIOT TOUR

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総計時間11時間超え！歴代ライブ映像8公演分をフル尺公開！
LIVE IN YouTube

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復刻連載
『屑・フロム・ヘル』

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オフィシャルインタビュー
青木優

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志磨遼平が音楽を担当
「谷賢一新作『人類史(仮)』」

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アニメーション映画「音楽」主題歌
“ピーター・アイヴァース”配信中

　ある時はロックンローラー、ある時は優れた音楽家、またある時は……ペテン師？　そして、ある時は無垢な文学少年、ロック少年であり、またまたある時は鋭い批評家だったりもする。この異才、奇才、鬼才がメジャーのレコード会社を舞台にしつつ、理想と現実との狭間で悪戦苦闘、七転八倒、紆余曲折を続けて、丸10年が経った。
　が、そのタイミングを迎えた2020年春のこの世界は、恐るべき感染症によって、かつて誰しもが経験したことのないような空気に覆われている。世界も、この国にいる人々も。そして文化だって、音楽だって。何もかもが。

「2020年はいろんな意味で何かの区切りの年だろうな、とは思ってたんですね。デビュー10周年の自分にとっても、オリンピックがあるはずだった日本にとっても。そしたら大変なことになってしまい……祝ってるどころではない、という」

　冷静に語る志磨遼平の脳裏をよぎるのは昨年、最新アルバム『ジャズ』において、世界の終わりについて唄ったことである。ロマの音楽を指向した、あの躍動的なサウンドに乗せて。

「今となっては、めちゃくちゃ不謹慎なアルバムになりましたね（笑）。あんな曲を書ける時点でものすごく悠長だった、今思えば。ツアーも《世界の終わりの移動式パーティー》みたいなことをやってね」

　やっと微笑んだ志磨。もっとも、世界情勢と彼の表現との符合は、近年の作風を照らし合わせると、決して偶然ではないように感じられる。で、そんな視点のまま今回の2枚組ベストアルバム『ID10＋』（読み:イディオット）を手にすると、かつての志磨が放っていた野放図さ、ダイナミズムが、それとコントラストを描くように浮かび上がってくる。
　イギー・ポップがデヴィッド・ボウイとタッグを組んだ傑作アルバム『愚者』（The Idiot）を想起させるタイトルに、毛皮のマリーズが「東京のストゥージズ」と呼ばれていたことを思い出す。さらにニューヨーク・ドールズ、セックス・ピストルズ、ローリング・ストーンズ……。ワイルドなロックンロールを鳴らし、血を流し、骨を折ってまで暴れまくった末のメジャー・デビュー。当時僕は小さなヴェニューでのライヴ後に志磨と初めて接見した際、その柔らかい物腰と優しい口調にひどく驚いた。そのたたずまいは、あの手のバンド特有の野性や不良性と大きく異なるものだったからだ。そしてそんな不可思議さは、彼の新しい音楽が出来上がるたびに答え合わせがなされていった。音楽、そしてカルチャー全般に豊富な知識と知見を持つ志磨は、あのバンドをあえて、狙ってやっていたのだ。
　とはいえ、今あらためて当時の音に接すると、若き日の彼がいかに青い衝動に彩られていたかも伝わってきて、だからホロ苦さもある。その毛皮のマリーズは2011年限りで幕を下ろした。メジャーでの実働はオリジナルアルバム3枚、わずか1年8ヵ月だ。

「僕らはすごく無邪気で、世の中のことなんて何も気にしてなかった。心配事なんか何もなかった。安心して遊んでいられたんです。だけど2011年に大きい地震（東日本大震災）があって、奇しくも今と似た空気だった。そう思うと毛皮のマリーズは、もし続いてたとしても、2010年代（という時代性）を……たぶん生き延びれなかったんだろうなと思います。で、すぐに作ったドレスコーズというバンドは、その反動なのかというぐらいシリアスだった。最初の4人の頃は」

　初期のドレスコーズは志磨が出会った精鋭たちを揃えた、鉄壁のラインナップだった。しかしこのバンドが見た夢はわずか3年でついえてしまう。その炎が風前にさらされているかのような「ヒッピーズ」が、せつない。この10年間の前半は、彼がバンドという共同幻想に抱いていた理想主義が崩壊していく段階だった。

「バンドには〈俺たちは運命共同体で、死ぬ時も一緒だ〉って盃を交わすような、古風なロマンがあると思うんですけど、それが叶わなくなってきたんでしょうね。で、世界的にもロック・バンドに代わってシンガー・ソングライターやラッパーから革新的な作品がどんどん生まれて、みんなそれぞれの部屋からひとりでラップトップやスマートフォンに向かってなにかを発信するのが当たり前になった。実際に集まって一致団結するんじゃなくて、それぞれの部屋での共闘……っていう時代ですよね」

　自分自身をドレスコーズと再定義した2014年の秋以降、志磨は新たな才能の扉を開いていった。第1段階であるアルバム『1』『オーディション』は、タイトルも込みでテーマの根底にバンド幻想の残滓が見え隠れしていたが、彼はここで作品ごとに結成→解散をくり返す独自のスタイルを体得。続くシングル「人間ビデオ」、そしてアルバム『平凡』『ジャズ』と、まったくの新段階に突入していく。
　ここで表出したのが作品を通じて世の中を射抜く、言うなればジャーナリスティックなドレスコーズの姿だ。かつて自分（たち）の物語性の中で暴れていた志磨は、持ち前の俯瞰的な視線と批評性を研ぎ澄ましながら、その矛先を社会、世界へと拡大し、時代のリアルな匂いを反映させる創作スタイルへと進化していった。そしてこうしたドレスコーズの媒体化/メディア化は、このディケイドにおける閉塞感の強まりともリンクしている。

「根本は何も変わってませんよ。〈今、自分がこれだ！と思うこと〉を〈まだ誰もやってないやり方〉で具現化する。それって、たぶんジャーナリズムと似てるんですよね」

　また今回のベスト盤は、別の観点からも志磨の像を映し出している。「終わり」についての歌と「愛」についての歌の存在だ。それらは王道ナンバーが並ぶRIOT盤でも、内省的な楽曲が集められたQUIET盤でも、気が付けば要所に置かれているではないか。

「うわ、ほんとだ！　……意識してなかったです。これは終わりから逆算する自分の性（さが）ですね。突然、別れとか終わりとかが来るとあまりに悲しいので先に準備をする……というのが僕の行動原理なんでしょうね。〈いつか終わるのにこんなに盛り上がってるの、楽しいね〉みたいにものを見ちゃう、小さい頃から」

　今回のヴィジュアルで、自身の少年時代からリスペクトしてきた巨匠・鋤田正義による撮影が実現した志磨は現在、とても充実しているようだ。最近は谷賢一の新作舞台『人類史(仮)』で音楽を担当することが発表されたし、鈴木慶一とKERAのNo Lie-Senseの新曲「我等が世は」にはコーラスで加わり、ラッパーのKOHHのラストアルバムにはアレンジャーとして参加。そしてドレスコーズとしては、この10周年を記念しての全国ツアー3公演が新型コロナウイルスの影響で延期の憂き目に遭ってはいるものの、次なる作品の構想も始めているという。

「『ジャズ』を作ってる最中から、もう次の構想があるんです。だから今は、それを早く作らないと、って焦っています。ここでなにかが確実に終わって、その焼け野原から芽が出るかどうかは、まだわからないですけど……。世界で日常が一度中断されたあとに、あらためて新しい文化を再築する……ゼロから生まれる何か、それはどういうものなのか？　を考えています」

　かつて大人になるのを拒むような駄々っ子ぶりを見せていた志磨は今、どんな人の隣でも絶望がパカッと口を開けてるような状態のこの世界で、今度はどう「始まり」を唄い、そしてどう「愛」を唄うのか？　いや、事は（またしても）そう簡単に運ばなかったりする、のか？
　ともあれ、この愚者に、幸多からんことを。そして志磨遼平の音楽を享受し、時に笑い、時に呆れ、時に熱くなり、と翻弄され続けるわれわれにも、幸多からんことを……！
　祈る。